9年間をお米開発に捧げる人
何がなんでもやってやる。365日、お米のことばかり考えています。
兵庫県立農林水産技術総合センター 篠木 佑 主任研究員
【任務】暑さに強くて味も美味しい、兵庫オリジナルのお米をつくれ。
私は中学の頃から生物が好きで、大学では「夏の暑さによるお米の白濁化」を研究する研究室に所属していました。栽培過程でお米が白く濁らないようにするためには、どうすればいいんだろう?いつか自分でお米づくりをしてみたい…そう考えていた私は、“酒米の王様”とも呼ばれる『山田錦』のゆかりの地、兵庫県でキャリアをスタートしました。
野菜の研究や農家の技術サポートなどさまざまな経験を積むうち、幸運にも「キヌヒカリに代わる、高温に強いオリジナル品種」を開発するチャンスをいただけたんです。大学時代の経緯もあり、その連絡を受けた時にはただならぬご縁を感じました。
人生の約10分の1の年月をかけて、新品種育成と向き合ってきた。
一般的に、お米の開発には14年の期間が必要だと言われています。しかし、兵庫県では暑さに強いオリジナル品種の開発が喫緊の課題で、1日も早い完成が求められていました。そこで私は、開発工程から見直し、14年を9年に短縮する計画を立案しました。当然、1年たりとも失敗が許されない状況だったので、プロジェクトが始まってからは、大げさでなく365日、お米のことばかり考えています。
9年間という年月は、人生の約10分の1。それだけの時間をかけるからには「何がなんでもやってやる!」という気持ちで、新品種の開発に取り組んでいます。
このガラス温室がなかったら、新品種は生まれなかったかもしれない。
高温に強く美味しいお米をつくるために、まず私が考えたのは“つくり方からつくり変える”こと。そのひとつが、「炎天下と同じ温度を生み出すガラス温室」です。この温室は、室内温度に連動して自動で暖房をつけたり窓を閉めたりでき、お米が白く濁る27度以上の高温環境を維持できる優れものなんです。温度センサーの仕組みや温室の構造などの試行錯誤を重ねたことで、全国的にもトップクラスの温室になりました。この環境があったからこそ、暑さに強い新品種の開発が実現できたと思います。
100年後も、兵庫の食卓で愛されるお米になってほしい。
お米の美味しさの基準のひとつに、「タンパク質の含有量」があります。近年ではタンパク質の重要性が注目されていますが、お米の場合、タンパク質含有量が多いほど味が落ちると言われています。新ブランド米の客観的な美味しさを調べるため、理化学分析を実施したところ、キヌヒカリよりもタンパク質含有量が少ない、つまり「味が良い」ことが分かったんです。さらに、病気への耐性もキヌヒカリと同等以上。美味しく、暑さに強く、病気になりにくい100年後も残る兵庫オリジナルのお米ができたのではと自負しています。兵庫の皆さまにこのお米を安定供給できるよう、最後まで気を抜かずに全力で取り組んでいきたい。そう思っています。